[定義を確認すれば自明]なぜ空集合はあらゆる集合の部分集合なのか

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対象読者

  • この件について納得できない方
  • 高校数学の「論理と集合」を少しでもかじったことがある方

結論

この件は数学の定義を普通に追えば証明できる。本来は単純明快な話なのだが、ネット上には、初学者を惑わすようないい加減な議論が多々見られる。

この証明に納得するためポイントは、数学の「ならば」と日常会話の「ならば」の違いを理解することにあるが、本記事では、これは蛇足として棚上げして、証明を示すにとどめる。

まずは、ネット上の議論をまとめる。その後、定義を確認し、証明を行う。

ネット上で見られる意見(参考※1)

「なぜ空集合が任意の集合に含まれるのか」について、ネット上のQ&Aで以下のような意見があった。

  1. 便宜上、そう決めれば都合がいいから
  2. 対偶で証明すればおk。
  3. 真理値表を使わずに理解したい

それぞれに対して、以下のように思う。

  1. 誤りである。定義を追えば証明できる。余分な約束事など持ち出す必要はないし、有害ですらある。こういう考え方を「オッカムの剃刀」という。
  2. 対偶を使ってもいいが、回りくどいだけだ。
  3. 真理値表は避けて通れない。真理値表に当てはめただけ、という感じがモヤモヤに繋がったのだと思う。このモヤモヤは、数学の「ならば」と日常会話の「ならば」の違いを押さえることで解消できる。

以上、ネット上の妄言をまとめた。以降、正々堂々と証明する準備に入る。

空集合の定義

空集合とは、要素を持たない空の集合であり、\(\phi\)と表す。

つまり、あらゆる要素\(x\)は空集合\(\phi\)には属さない。記号で書くと、

$$x \notin \phi$$

となる。逆に言えば、

$$ x \in \phi は常に偽 \tag{1}$$

となる。

部分集合、含むの定義

集合\(A\)が集合\(B\)に含まれることは、\(A \subset B\)と表す。このとき、「\(A\)は\(B\)の部分集合である」と言う。要素\(x\)は\(A\)に属する“ならば”、\(B\)にも属する、という意味だ。数式で書き下すと以下になる。

\begin{eqnarray} &&A \subset B \\ \Leftrightarrow &&\forall x, x \in A \Rightarrow x \in B \\ \end{eqnarray}

「\(\Leftrightarrow\)」は両辺とも同じ内容であることを意味する(同値という)。

「\(\forall\)」は全称量化子といい、「全て」または「任意の」という意味だ。Allの”A”を逆さにしてできた記号だ。

「\(\Rightarrow\)」は「ならば」の数学・論理学での記号だ。記号として定義してある以上、日常会話のようにフワッとしたものではなく、四則演算のように厳密に定義されている。

「空集合が全ての集合に含まれる」の厳密な表現

あらゆる集合\(A\)について(\(A=\phi\)の場合でさえ)、

\begin{eqnarray*} &&\phi \subset A \\ \Leftrightarrow &&\forall x, x \in \phi \Rightarrow x \in A \tag{2} \end{eqnarray*}

が常に成り立つのはなぜか問うことが本記事の目的だった。これを証明するためには、「ならば」の真理値を押さえる必要がある。

数学の「ならば」の定義

数学における「ならば\(\Rightarrow\)」は、2つの真理値\(P\)、\(Q\)の入力に対して、1つの真理値を出力する2項演算子だ。足し算が2つの数値を受け取って、1つの数値を返すのと同じ感じだ。

\(P\)と\(Q\)を命題とする。命題とは、真か偽かのいずれかとして判断できる文のことだ。1,2,3のような値を自然数というのと同じで、真、偽のような値を真理値という。

真理値は2通りある。よって、\(P\)と\(Q\)の演算の結果は2×2=4通りある。以下に「\(\Rightarrow\)」の入出力の対応表をまとめる(真理値表という)。

表1.「ならば」の真理値表
\(P\) \(Q\) \(P \Rightarrow Q\)

これが数学における「ならば」の定義だ。

定石通りの証明

本記事の問題(2)を表1に当てはめると、

  1. \(P\)が\(x \in \phi\)
  2. \(Q\)が\(x \in A\)

に対応する。「\(\forall\)」はどこにいった?って感じだが、無視しておkだ(詳しく知りたい方は補足へ)。

空集合の定義(式1)より、\(P\)は常に偽となる。つまり、この真理値表の③と④のみに着目すればよいことが分かる。このとき、\(Q\)の真偽に関係なく、\(P \Rightarrow Q\)は真となることが分かる

よって、本記事の問い(式2)は常に真、つまり、「空集合はあらゆる集合の部分集合である」は正しいことが分かる。

\(A = \phi\)のとき、\(Q\)は偽となるが、そんなの関係ねぇ!「あらゆる集合」には空集合も適用できる空集合は空集合を含むのだ。これは直観的には納得できないが、迷うことはない。定義を追うだけだ。

アレンジ版の証明

読者様

読者A

いきなり「ならば」の真理値表を持ち出されて、「はい、証明完了♪」なんて言われても納得できねえよ!

ということで、定石通りの証明にアレンジを加える。

上記の証明が納得しがたい理由は、表1がただの真理値の羅列にしか見えないからだ。しかし、「ならば\(\Rightarrow\)」は日常会話の「ならば」の本質を抜き出すことで定義されたものだ。その詳細は棚上げするが、日常会話に色んな言い回しがあるのと同様に、「ならば\(\Rightarrow\)」も別の表現が可能であることを以下で確認する。その確認を通して、表1は無味乾燥した記号の羅列ではなく、日常会話の「ならば」が潜んでいることを感じてもらいたい。

「ならば」の別表現

日本語の「ならば」の言い換えを考える。

  • \(P\)を「テストの点数が良い」
  • \(Q\)を「ゲームを買ってあげる」

とおく。

以下の文A, Bは同じ意味を持つので、互いに言い換えることができそうだ。

  1. 「テストの点数が良ければ、ゲームを買ってあげる」
  2. 「テストの点数が良いのに、ゲームは買ってあげない、ということはない

記号で表し直すと、

  1. \(P \Rightarrow Q\)
  2. \(\lnot (P \land \lnot Q)\)

    と書ける。Bの「のに」が「かつ(\(\land\))」に対応しているのがちょっと分かりにくいかもしれない。しかし、Bは

    • 「テストの点が良い状況」と「ゲームを買ってもらえない状況」が”同時”には起こりえない。

    とも読み替えられる。”同時に”と「かつ」は同義なので、Bの記号化は妥当だろう。「かつ」は、「のに」、「にも関わらず」のように色んな言い回しが考えられる。

    表2.「かつ」の真理値表
    \(P\) \(Q\) \(P \land Q\)

    「\(\lnot\)」は否定を表す。真を偽に、偽を真に変換する。-1を掛けると符号が逆転することに似ている。

    表3. 「ではない」の真理値表
    \(P\) \(\lnot P\)

    表2と表3を参考にし、Bの真理値表を作成する(表4)。

    表4.「ならば」の別表現
    \(P\) \(Q\) \(\lnot Q\) \(P \land \lnot Q\) \(\lnot(P \land \lnot Q)\) \(P \Rightarrow Q\)

    赤色の部分は一致していることが分かる。つまり、日常会話の感覚での言い換えが、数学上で通用したのだ。「ならば」の真理値は適当な羅列ではなく、日常通りの語感が表現されている。

    証明

    以上の文A,Bの言い換えを用いると、本記事の問題(2)は以下のように変形できる。

    \begin{eqnarray*} &&\forall x, x \in \phi \Rightarrow x \in A \\ \Leftrightarrow && \forall x, \lnot(x \in \phi \land x \notin A) \tag{3} \end{eqnarray*}

    命題(3)の左辺\(x \in \phi\)は空集合の定義(1)より、常に偽である。

    \(P \land Q\)は片方が偽の時、もう片方の真偽を問わず、偽となる(表3)。常に偽である命題が否定されたものが命題(3)である。よって、命題(3)は常に真。

    補足: 全称量化子による述語の束縛

    実は、\(x \in X\)のような文は述語と呼ばれる。この文は「\(x\)は\(X\)に属する」というように、「主語+述語」、という構造で読める。\(x\)は主語に対応する。その真偽は\(x\)に何を代入するかで変わってくる。つまり、主語を確定しない限り、述語の真偽は確定しないので、述語は命題ではない

    しかし、主語を確定せずに述語の真偽を決定する道具がある。それが全称量化子であり、前述の通り、「任意の」という意味だ。いろんな具体的な値(主語)の代入を一括で評価して、述語の真偽を確定することが「全称量化子」の作用だ

    では、一括で代入するにはどうすれば良いのだろうか。前提の性質を語ればよい。つまり、どのような値を選ぼうとも、前提の性質を満たすことは保証されていることを利用する。その上で、前提の性質から、結論の性質が導ければ、一括の代入は達成されたと言えるだろう。

    例えば、「任意の自然数において、4の倍数(集合\(F\))は2の倍数(\(集合T\))に含まれる」という文を考える。「4は2の倍数、8も2の倍数、…」とひとつずつチェックせずとも、その内のテキトーな値を変数でおき、その変数は前提を満たす、とすればよく、

    1. 前提を満たす(任意の)値を\(n \in F\)とおく。
    2. すると、その性質より、\( m \in 自然数, n = 4m\)と言える
    3. すると、\(n = 2(2m)\)と言える。
    4. よって、\(n\)は2の倍数となり、\(n \in T\)

    という感じで、まずは前提の性質から議論すればよい。よって、\(\phi \subset A\)も、まず、

    • \(x \in \phi\)とおく

    というように性質から議論を始めればよかったのだ。

    参考

    1. OKWAVE「空集合はすべての集合の部分集合である」の説明
    2. 論理学入門 [三浦 俊彦]

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