所感
理由もない嘘をつく友人がいるな、と思い、タイトルに惹かれて購入した本だ。「虚偽と邪悪の心理学」という副題も中二心をくすぐる。
本書では著者が面談してきた患者を抽象した人物に対する様々な例を通して以下を得られる。
- 心理療法士や患者を追体験できる
- 邪悪は身近な存在であることを理解できる
これらはゾッとすると同時にとてもエキサイティングな体験だった。
邪悪な人とは特別な人ではなく、隣人の誰かだ。邪悪な人はとても礼儀正しく、誠実で上品に見えることすらある。あなたの親、上司、友人かもしれない。その邪悪さは彼らが弄する巧妙な虚偽から匂うことができる。虚偽の本質は自分自身すらも騙すことだ。
本書では、初っ端から悪魔と契約した患者の例が出てくる(それ何てラノベ)。その患者は悪魔を利用することで、自己と向き合うことを避けた。これは真面目な内容であり、悪魔の亜種を私自身も利用したことがある。
本書は邪悪という人間の本性を科学で捉え、対峙することを提言するものである。科学とは還元主義的なものである。そこに価値判断を持ち込む隙はない。本書の著者はキリスト教に帰依した身分であり、思想的に中立ではないのだが(中立の人なんていないと思うが)、だからこそ宗教的価値観の価値を体感しており、しかも心理療法の現場でそれは有益である。患者の病因の特定に繋がるからだ。
邪悪とは、自分の至らない点を拒否する合理化のために、何かを殺すことだ。自分の弱さ・不完全性と向き合うことはとても辛いことだ。しかし、それは自己改善に不可欠だし、とても立派なことだ。自分はなんてダメなヤツなんだ、と真摯に自己と向き合っている方への癒しとなるような内容だった。
著者
M・スコット・ペック
[訳] 森 英明
文庫 平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学 (草思社文庫) 新品価格 |
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