対象読者
- ストークスの定理を視覚的に理解し、しっかり暗記したい方
結論
ストークスの定理は、
- 回転量についての経路視点と面積視点の言い換え
- 微小要素が打ち消し合って、外側の値だけが残る
という2点を理解すれば、公式を忘れても、即座に導出できる(ガウスの発散定理の理解も同様)。
ストークスの定理は以下だ。
$$\int_C \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} = \iint_S (\nabla \times \boldsymbol{v}) \cdot d\boldsymbol{S} \tag{1}$$
この式のイメージを理解するポイントは積分の対象となる微小要素の意味を理解することだ。まず、左辺の微小要素\(\boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r}\)ついて見ていく。
ストークスの定理の基礎;回転量の数学的な表現
台風のような渦をイメージして欲しい。台風の勢い、つまり回転量をどう表現すればよいのだろうか。
台風の中で、閉じた経路\(C\)を描く。\(C\)上を風\(\boldsymbol{v}\)が突き抜けていく。\(C\)の微小要素\(d\boldsymbol{r}\)上での風の強さを考える。
\(d\boldsymbol{r}\)と垂直な風は無視してよい。それは\(d\boldsymbol{r}\)に沿っていないからだ。\(d\boldsymbol{r}\)に平行な成分と微小経路\(d\boldsymbol{r}\)の距離をかけたもの\(\boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r}\)のみが、\(d\boldsymbol{r}\)に沿った風の強さであり、式(1)の左辺の微小要素だ。
それらを合計すると、ストークスの定理の左辺を得る。
$$ Cでの回転量 =\int_C \boldsymbol{v} \cdot \ d\boldsymbol{r} \tag{2}$$
回転量とは、経路に沿ったベクトル成分の合計なのだ。閉じた経路に沿った風の合計値によって、回転の勢いを表せそうだ。
微小な閉じた経路での回転量 = rot
次は、公式(1)の右辺の微小要素\((\nabla \times \boldsymbol{v}) \cdot d\boldsymbol{S}\)について見ていく。
式(2)を\(z\)軸周りの微小な閉曲線\(\partial S_z\)に適用してみる。
\(\partial S_z\)は4つの経路(\(C_x, C_{x+dx}, C_y, C_{y+dy}\))を繋げたものだ。ます、\(x\)方向の回転量について考える。\(C_{y + dy}\)と\(C_y\)で\(d\boldsymbol{r}\)の向きが逆になっている点に注意だ。
\begin{eqnarray} &&C_{y + dy}での回転量 \\ &&= \boldsymbol{v}(x, y + dy, z) \cdot d\boldsymbol{r} \\ &&=\boldsymbol{v}(x, y + dy, z) \cdot (-\boldsymbol{i}dx) \\ &&= – v_x(x, y + dy, z)dx \tag{3,1} \\ &&C_{y}での回転量 \\ &&= \boldsymbol{v}(x, y, z) \cdot d\boldsymbol{r} \\ &&=\boldsymbol{v}(x, y, z) \cdot (\boldsymbol{i}dx) \\ &&=v_x(x, y, z)dx \tag{3.2} \end{eqnarray}よって、(3.1)と(3.2)より、
\begin{eqnarray} &&\partial S_zでのx成分に関する回転量 \\ &&= \int_{C_yとC_{y + dy}} \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} \\ &&= v_x(x, y, z)dx \\ &&+ (-v_x(x, y + dy, z)dx) \\ &&=(-\frac{\partial v_x}{\partial y}dy)dx \tag{3.3} \end{eqnarray}同様に考えると、
\begin{eqnarray} &&\partial S_zでのy成分に関する回転量 \\ &&= \int_{C_xとC_{x + dx}} \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} \\ &&= -v_y(x, y, z)dy \\ &&+ v_y(x + dx, y, z)dy \\ &&=(\frac{\partial v_y}{\partial x}dx)dy \tag{3.4} \end{eqnarray}(3.3)と(3.4)を合計すると、
\begin{eqnarray} &&\partial S_zでの回転量 \\ && = \int_{\partial S_z} \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} \\ && = (\frac{\partial v_y}{\partial x} – \frac{\partial v_x}{\partial y})dxdy \\ &&=(\nabla \times \boldsymbol{v})_{z}dxdy \tag{3.5}\\ \end{eqnarray}同様に、\(x, y\)軸周りの微小な閉曲線\(\partial S_x, \partial S_y\)について考えると、
\begin{eqnarray} &&\partial S_xでの回転量 \\ &&=(\nabla \times \boldsymbol{v})_{x}dydz \tag{3.6} \\ \\ &&\partial S_yでの回転量 \\ &&=(\nabla \times \boldsymbol{v})_{y}dzdx \tag{3.7} \\ \end{eqnarray}となる。
式(3.5)、(3.6)、(3.7)は似ている。実は、数学の回転\(\mathrm{rot}:= \nabla \times \boldsymbol{v}\)は、各軸\(x, y, z\)周りの単位面積あたりの回転量をベクトルで表現したものなのだ。
x-y平面に収まらない微小な閉曲線での回転量
上では、x-y平面上の閉曲線\(\partial S_z\)について詳しく見た。
しかし、経路はx-y, y-z, z-x平面上に収まるとは限らない。そこで、より一般的な微小な閉曲線\(\partial S\)での回転量を考える。
ベクトルは各成分に分解できるので、経路は各平面上の経路に分解できる。
$$ \partial S = \partial S_x + \partial S_y + \partial S_z$$
結局、\(\partial S\)での回転量は(3.5), (3.6), (3.7)の合計となる。
\begin{eqnarray} &&\partial Sでの回転量 \\ && = \int_{\partial S} \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} \\ && = \int_{\partial S_x + \partial S_y + \partial S_z} \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} \\ &&=(\nabla \times \boldsymbol{v})_{x}dydz \\ &&+(\nabla \times \boldsymbol{v})_{y}dzdx \\ &&+(\nabla \times \boldsymbol{v})_{z}dxdy \tag{4.1}\\ \end{eqnarray}もっと綺麗にまとめれそうだ。面積をベクトルで表してみる。
\begin{eqnarray} d\boldsymbol{S} &&= S_x\boldsymbol{i} + S_y\boldsymbol{j}+ S_z\boldsymbol{k} \\ &&=dydz\boldsymbol{i} + dzdx\boldsymbol{j}+ dxdy\boldsymbol{k} \tag{4.2} \end{eqnarray}(4.1)を(4.2)で書き換えると、
\begin{eqnarray} &&\partial Sでの回転量 \\ && = \int_{\partial S} \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} \\ &&=(\nabla \times \boldsymbol{v}) \cdot d\boldsymbol{S} \tag{4.3} \end{eqnarray}これは式(1)の右辺の微小要素だ。式(4.3)は、回転量を経路視点から面積視点に変換する式である。
内側では打ち消し合い、外側だけ残る
隣り合った微小な閉曲線\(\partial S_iと\partial S_j\)の回転量の合計(☆)を計算してみる。
両者で共有する経路(\(l\))での回転量は打ち消し合う。お互いに逆向きだからだ。式で書くと、
\begin{eqnarray} &&\int_l \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} + \int_{-l} \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} \\ &&= \int_l \boldsymbol{v} \cdot (d\boldsymbol{r} – d\boldsymbol{r}) \\ &&=0 \\ \end{eqnarray}故に、共有していない、外側の経路での回転量のみを合計することで(☆)を求めることができる。
微小ではない閉曲線\(C\)における回転量も同様に考えることができる。共有される経路での回転量はキャンセルされるため、以下のように\(C\)を無数の微小な閉曲線\(\partial S_i\)に分解できる。
微小な閉曲線\(\partial S_i\)が成す面積\(S_i\)も微小であるため、経路視点と面積視点で言い換えることができる(式(4.3))。なお、閉曲線\(C\)が成す面積を\(S\)とおくと、以下を満たす。
$$S = \sum_i S_i$$
微小な面積要素を足し合わせることはまさしく面積分なので、総和\(\sum\)を積分\(\iint\)に書き換えられる。まとめると、
\begin{eqnarray} \int_C \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} &&= \sum_i \int_{\partial S_i} \boldsymbol{v} \cdot d\boldsymbol{r} \\ &&= \sum_i (\nabla \times \boldsymbol{v}(\boldsymbol{r_i})) \cdot \boldsymbol{S_i} \\ &&= \iint_S (\nabla \times \boldsymbol{v}) \cdot d\boldsymbol{S} \\ \end{eqnarray}これがストークスの定理(式(1))の意味だ。
ストークスの定理は公式を忘れても大丈夫!
回転量についての2つのイメージ
- 経路の積分と面積の積分の言い換え((式4.3))
- 内側は打ち消し合って、外側だけが残る
これさえ覚えていれば、ストークスの定理の公式を導出することができる。
現に、私がストークスの定理を知ってから9年近く経ったが、本記事を書くことができた。式を丸暗記するのではなく、その成り立ちについて理解しておくと、記憶が長持ちするようだ。
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