対象読者
- なぜ生物は誕生したのか興味がある方
結論
「安定したものが生存する」という原則が生物を生んだ。世界はこの原則に従って変化してきた。この変化は、ビッグバンまで遡ると、
- 物理化学が支配する分子形成の物語
- 進化論が支配する遺伝子形成の物語
の2部に分けられる。
根拠
第1部はビッグバンから幕を開ける。
1.原始の地球
ビッグバンによって、世界は最も単純な原子である水素で占められた。それが核融合して、より巨大で安定した分子が作られていった。
そんな中、原始の地球が誕生した。そこには水、二酸化炭素、メタン、アンモニアなどの単純な分子を含んだ「原始のスープ」があった。
2.命の材料の完成
原始のスープに外部からエネルギー(火山、太陽光、雷)が与えられ、アミノ酸(タンパク質の材料)やDNAの構成要素(プリン、ピリミジン)が生じた。
これらが浜辺に集まって、さらにこの過程を繰り返す内に、大形有機分子が生じた。因みに、この過程は現在の海ではあり得ない。有機分子は即座にバクテリアに分解されてしまうからだ。
全てはエネルギーの安定に向かっての変化だった。
ここまでが第1部「物理化学が支配する分子形成の物語」だ。以降で第2部「進化論が支配する遺伝子形成の物語」に移る。
3.遺伝子の祖先 自己複製子の登場
あるとき偶然、とんでもない特徴を持った大形有機分子が登場した。自らの複製を作ることができるという特徴だ。これは遺伝子の祖先であり、自己複製子と呼ぶ。有機物の鎖が2つに分かれることで、数を増やしていくようなものだと考えればよい。
こんな特徴を持った物質が原始のスープに外部エネルギーを与えて、シェイクすることにより出来上がるとは思えない。しかし、この奇跡を宇宙の時間スケールは可能にした。
自己複製子は一度でも出来てしまうと、コピーを量産し、イッキに勢力を拡大した。その他の有機分子は、自己複製子のコピーのための材料とされ、減少していった。
4.自己複製子の進化 ~生存の3つの安定性~
自己複製子は誤ったコピーをしてしまうことがあった。そして、自分自身とは若干異なる変種が登場した。その誤りも世代を重ねる毎に大きくなり、多様な自己複製子が誕生した。
これらの自己複製子の中で生き残り、勢力を拡大できたのは、以下の3種類の安定性を持つものだった。
- 生存期間が長い
- 沢山コピーできる
- コピーが正確である
沢山コピーできても、生存期間が短ければ、繁栄はできない。逆もまた然りだ。また、コピーが不正確ならば、コピーされた子どもはもはや親とは異なる種になってしまうため、自身の数を増やすことができない。
これら3つの安定性を持つものは生き残り、その他のものは淘汰されていった。
突然変異とは、正確なコピーを目指しているにも関わらず、誤りを防ぎ損ねた時に起こるのだ。
5.競争の果てに生命が誕生した
ダーウィンは、動植物において競争を論じたが、その議論は自己複製子にも当てはまるようだ。コピーの材料となる分子は限られた資源であり、その資源をめぐって、自己複製子の競争が起こった。
これは感情や目的を伴わない競争だ。無作為なミスコピー(突然変異)の中で、生存に有利な性質を持つ自己複製子が生き延び、その性質は子に引き継がれ、累積していった。
こうして、自己複製子の生存戦略は巧妙になっていった。他のライバル変種を化学的に破壊することによって、コピーの材料を得る「原始捕食者」が現れた。そして、捕食者から身を守るために、タンパク質の盾を発明した自己複製子が誕生し、細胞の原型となった。
こうして、もはや自己複製子は裸のまま海中を漂うことはなくなった。代わりに、自己を保護する”乗り物”を作り上げた。これが生物の祖先である。さらに、生存の安定性を高める競争は続き、より”乗り物”が複雑化・高度化していった。こうして生物が誕生した。
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