対象読者
- ガウスの発散定理を視覚的に理解し、しっかり暗記したい方
結論
ガウスの発散定理は、
- 湧き出し量についての表面積視点と体積視点の言い換え
- 微小要素が打ち消し合って、外側の値だけが残る
という2点を理解すれば、公式を忘れても、即座に導出できる(ストークスの定理の理解も同様)。
ガウスの発散定理は以下だ。
$$\iint_S \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}dS = \iiint_V \nabla \cdot \boldsymbol{v}dV \tag{1} $$
この式のイメージを理解するポイントは積分の対象となる微小要素の意味を理解することだ。まず、左辺の微小要素\(\boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}dS\)ついて見ていく。
ガウスの発散定理の基礎;湧き出し量の数学的な表現
温泉が湧き出るところをイメージして欲しい。その湧き出し量をどうやって定義すればよいのだろうか。
湧き出し量とは、とある閉じた面\(S\)内から外へ出ていく流量のことだ。\(S\)上のとある微小要素\(dS\)における湧き出し量について考える。
\(dS\)における、内から外への垂直かつ大きさ1のベクトルを\(\boldsymbol{n}\)とする(単位法線ベクトルという)。
温泉の流れはベクトルで表すことができる。単位面積あたりの流量を\(\boldsymbol{v}\)とおく。\(\boldsymbol{v}\)は\(dS\)を貫いている。しかし、\(dS\)と平行な方向、言い換えれば、\(\boldsymbol{n}\)と直交する方向の水流は湧き出しとは関係ない。完全に内向きでも外向きでもない、という意味だからだ。
以上から、\(dS\)における湧き出し量は、\(\boldsymbol{v}\)の\(\boldsymbol{n}\)方向成分、つまり\(\boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}\)に面積をかけたものとなる。
$$dSでの湧き出し量 = \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}dS \tag{2}$$
これは公式(1)の左辺の微小要素だ。
これを閉曲面\(S\)上で合計したものが左辺であり、\(S\)上での湧き出し量を意味する。
微小な閉曲面での湧き出し量 = 発散(div)
次に、公式(1)の右辺の微小要素\(\nabla \cdot \boldsymbol{v}dV\)について考える。
閉じた面Sに囲まれた3次元空間を\(V\)とし、その中のとある微小体積を\(dV\)とする。そこでの湧き出し量について考える。
まず、\(x\)方向のみの湧き出し量を計算する。\(dV\)はメッチャ小さな立方体であり、合計6個の面がある。その中で、\(x\)方向の湧き出しと関係ある面は2つあり、\(dS_{x+dx}\)、\(dS_{x}\)と名付ける。
式(2)を用いて、\(dS_{x+dx}\)、\(dS_{x}\)それぞれの湧き出し量を計算できる。\(dS_{x+dx}\)と\(dS_{x}\)で、内から外への向きが逆になっている点に注意だ。
\(x\)方向の単位ベクトルを\(\boldsymbol{i}\)、流量を\(\boldsymbol{v}=(v_x, v_y, v_z)\)とおくと、
\begin{eqnarray} &&dS_{x+dx}での湧き出し量 \\ &&= \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}dS_{x+dx} \\ &&= \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{i}dydz \\ &&= v_x(x+dx, y, z)dydz \tag{3.1} \\ \\ &&dS_{x}での湧き出し量 \\ &&= \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}dS_{x} \\ &&= \boldsymbol{v} \cdot -\boldsymbol{i}dydz \\ &&= -v_x(x, y, z)dydz \tag{3.2} \end{eqnarray}よって、
\begin{eqnarray} &&x方向の湧き出し量 \\ &&= \iint_{dS_{x+dx}とdS_{x}}\boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}dS \\ &&= (v_x(x + dx, y, z) – v_x(x, y, z))dydz \\ &&=(\frac{\partial v_x}{\partial x}dx)dydz\tag{3.3} \end{eqnarray}同様に考えると、
\begin{eqnarray} &&y方向の湧き出し量 \\ &&=(\frac{\partial v_y}{\partial y}dy)dzdx \tag{3.4}\\ &&z方向の湧き出し量 \\ &&=(\frac{\partial v_z}{\partial z}dz)dxdy \tag{3.5}\\ \end{eqnarray}\(dV\)を囲む閉じた面を\(\partial dV\)と名付ける。\(\partial dV\)での湧き出し量は、x, y, z方向全ての湧き出し量の合計となるので、
\begin{eqnarray} &&dVでの湧き出し量 \\ &&= \iint_{\partial dV}\boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}dS \\ &&= ( \frac{\partial v_x}{\partial x} + \frac{\partial v_y}{\partial y} + \frac{\partial v_z}{\partial z} )dxdydz \\ &&= \nabla \cdot \boldsymbol{v}dV\tag{3.6} \end{eqnarray}となる。
これは公式(1)の右辺の微小要素だ。実は、数学の発散\(\mathrm{div}\boldsymbol{v} := \nabla \cdot \boldsymbol{v}\)とは、各軸\(x,y,z\)に対する湧き出し量を合計したものだったのだ。
内側では打ち消し合い、表面だけ残る
隣り合った微小な六面体\(dV_i\)と\(dV_j\)の湧き出し量の合計を計算してみる。
両者で共有する面(\(A\)とおく)での湧き出し量は打ち消し合う。お互いに単位法線ベクトルが逆向きだからだ。
$$ \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n_i}dA + \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n_j} dA = dA \boldsymbol{v} \cdot (\boldsymbol{n_i} – \boldsymbol{n_i}) = 0 $$
よって、
$$ \iint_{\partial{dV_i} + \partial{dV_j}} \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n} dS= \iint_{\partial{dV_i} + \partial{dV_j}の外側} \boldsymbol{v} \cdot\boldsymbol{n} dS $$
同様に、微小ではない閉曲面\(S\)での湧き出し量を考える。
閉曲面\(S\)に囲まれた面積を\(V\)とおく。このとき、\(V\)は無数の微小な六面体に分割することができる。
$$V= \sum_i dV_i$$
\(dV_i\)が成す微小な閉曲面\(\partial dV_i\)における湧き出し量は、式(3.6)によって発散で言い換えることができるので、
$$ \iint_{\partial dV_i} \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n} dS = div \boldsymbol{v} dV_i $$
また、
- 微小な六面体\(dV_i\)同士の隣り合った面での湧き出し量はキャンセルされる
- 微小な体積要素を足し合わせることはまさしく体積積分なので、総和\(\sum\)を積分\(\iiint\)に書き換えられる
まとめると、
\begin{eqnarray} \iint_S \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n} dS &&= \sum_i \iint_{\partial dV_i} \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n} dS \\ &&= \sum_i \nabla \cdot \boldsymbol{v}dV_i \\ &&= \iiint_V \nabla \cdot \boldsymbol{v} dV \end{eqnarray}これがガウスの発散定理(式(1))の意味である。
ガウスの発散定理は公式を忘れても大丈夫!
湧き出しについての2つのイメージ
- 面と体積の言い換え(式(3.4))
- 内側は打ち消し合って、表面が残る
これさえ覚えていれば、簡単にガウスの発散定理を導出することができる。
数学は公式の導出を通して、イメージを理解することが大切なんだと思う。私もガウスの発散定理について初めて勉強したのは本記事作成から9年前くらいだが、この2つのイメージを覚えていたので、今でも式(1)を導出することができた。
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